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カテゴリ:excerpt( 18 )

excerpt.18


劇場。

虚構と現実、ドラマと日常が交錯する場所。

本来は隔てられている舞台と客席が、

今はその境い目を見失っている。


俳優、音楽家、演出家をはじめとするスタッフたち。

表と裏に隔てられる人々も、

この時とばかりに等しく劇空間を行き交う。

観客さえもその一部。

いや、「観客」という立場に安住できる者など

何処にも居ないのかも知れない。


演目は『オセロ』。

白い肌の人々の国で、

その武勇を持って迎えられた偉大なる黒い肌の将軍の物語。

国や人種の違いを越え、

美しい妻から真の愛を手に入れたはずの男は、

やがて自らの肌以上に黒々とした感情へと飲み込まれていく。


仕掛けたのは将軍に腹心として信頼を得ていた男。

彼の胸に巣食う闇もまた、将軍の肌以上に深く暗い色をしていた。


友情、信頼、愛。

人と人を結び合わせるもの。

嫉妬、憎しみ、怒り。

人の心を切り裂き、狂わせるもの。

どちらも目に見える色を持たぬのは何故か。


境目を見失った寄る辺なき空間は、

鏡のように、目に見えぬはずの色彩を映し出す。

                    
 
                      
_____ 文・大堀久美子 / 白井晃演出『オセロ』パンフレットより
by urabefusako | 2013-06-11 10:43 | excerpt | Comments(0)

excerpt.17



「僕らは描かれた霧を見て、はじめて自然の霧というものを知る。ロンドンの霧を見ることができるのはそこに霧があるからじゃなくて、霧を描いてみせてくれた画家がいたからなのだ」(オスカー・ワイルド)。
 この有名な芸術論を「歴史」の語り方という問題にずらして考えてみると、およそ私たちのまわりにある物事や過去は、それらを描き出した(書き表わした)人々の「見方」を通して、見られ解釈されているという、当然すぎるゆえに忘れられてしまいがちなことを気がつかせてくれる。



______ 鶴岡真弓 ・ 松村 一男 著書「ケルトの歴史」より
by urabefusako | 2013-05-12 14:53 | excerpt | Comments(0)

excerpt.16

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まい年、8月6日がくると、ひろしまの7つの川は、とうろうであふれます。
ちよちゃん、とみちゃん、おにいちゃん、おかあさん、おとうさん……。
それぞれ、ピカでしんだひとの名まえをとうろうにかくのです。
川は、ぱあっとあかるくなります。
ひろしまの7つの川は、火の川のながれとなります。
ゆらり、ゆらりと、海へゆくのです。
ピカのとき、ながれていったひとのように
いまは、とうろうがながれてゆくのです。
みいちゃんは、とうさんとかきました。
もうひとつのとうろうには、つばめさんとかいてながしました。

もう、かみの白くなったおかあさんは
いいます。7つのままのみいちゃんの頭をなでながらいいます。

「ピカは、ひとがおとさにゃ、おちてこん」


______丸木俊「ひろしまのピカ」より____
by urabefusako | 2013-05-04 19:16 | excerpt | Comments(0)

excerpt.15

いつも疑問をもって質問をくりかえすこと 絶えず
何百万人の人がいる この国中に 
なのに誰一人 私達の内で 誰一人質問をする人がいない
皆一番楽な逃げ場を探している
私が働いてたところの人たちもそう
一番楽な逃げ場に逃げ込んでる
私たちなんに対しても
もう戦うってことをしない
私たちまるで死人みたいに
精神で的にはもうだらけ切っちゃってるのね
ロニイはよく言ったわ
「その当然の報いが来てるんだ 今の世界は! 僕たち自身が大きな 誤りをおかしてるからなんだ」って



____アーノルド・ウェスカー「根っこ」より
by urabefusako | 2013-03-23 02:03 | excerpt | Comments(0)

excerpt.14


  くまさん
      まど・みちお


  はるが きて 
  めが さめて
  くまさん ぼんやり かんがえた
  さいているのは たんぽぽだが
  ええと ぼくは だれだっけ

  だれだっけ
  
  はるが きて
  めが さめて
  くまさん ぼんやり かわに きた
  みずに うつった いいかお みて
  そうだ ぼくは くまだった
  よかったな



      ________詩「くまさん」まど・みちお
 

 
by urabefusako | 2013-01-23 22:41 | excerpt | Comments(0)

excerpt.13


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桜散る女(昭和50年)

         ____ 竹中英太郎 「夢を吐く絵師」より
by urabefusako | 2013-01-05 14:32 | excerpt | Comments(0)

excerpt.12


兵隊のあとについて歩いてゆく。
ひとりでに足並みが兵隊のそれと揃う。

兵隊の足並みは、もとよりそれ自身無意識的なのであるが、
われわれの足並みをそれと揃わすように強制する。
それに逆らうにはほとんど不断の努力を要する。
しかもこの努力が
やがてばかばかしい無駄骨折りのように思えてくる。
そしてついにわれわれは、強制された足並みを、
自分の本来の足並みだと思うようになる。



____大杉栄「自我の棄脱」より
by urabefusako | 2012-12-26 20:09 | excerpt | Comments(0)

excerpt.11



俺の足は楽園の草を踏みしめて歩いた。

日が沈むまで、空がガラスのように輝くあいだ。

俺の足は楽園の草を踏みしめて歩いた。

日が昇るまで、孤独な星たちが夜空をめぐるあいだ。

やがて俺の足は地に降り立って歩いた

母は俺を産んで泣いた。

どんなに遠く歩いても、どんなに早く歩いても

俺の足は楽園の草をもとめ、いまもうずく。

俺の足は楽園の草をもとめ、いまもうずく。




__テネシー・ウィリアムズ「ブルーマウンテン・バラード集」より
by urabefusako | 2012-12-14 01:21 | excerpt | Comments(0)

excerpt.10



「人は誰でも心にずしりと重みを抱えてるもんさ。
そして、時に、どうにも重くてやりきれねえことがある。
そんな時は自分の身のまわりをながめるこった。
じっと重みのことばかし考えてちゃいけねえ。
押し潰されちまう。
下手な考え休むに似たりとはよくいったもんさ。
まずは、食べて、寝て働いてみるんだ。
そのうち、この繰り返しが、
生きてるってえことで、
そっちの方が、
なまじ心の重みなんぞより、
よほど重い、
ありがてえことだとわかる。
これが人生のいい塩梅ってもんさ」


  _____「雛の鮨 料理人季蔵捕物帖」和田はつ子著
by urabefusako | 2012-11-26 13:15 | excerpt | Comments(1)

excerpt.9


「月の出」

月が出る
鐘は消える
通れない小路
あらわれ

月が出る
陸にかぶさる海
はてしのないところで
心臓は孤島の感じ

満月の下
オレンジを食べる者はいない
みどり色の氷のような
果物を食べる

どれも同じ百の顔
月が出る
ポケットの中で
しのび泣く銀貨

  
_______フェデリコ・ガルーシア・ロルカ(1899~1936)
by urabefusako | 2012-07-29 08:15 | excerpt | Comments(0)